生成AIの海外先進事例や実際の削減効果を分析

要約
- McKinsey & Company 社の最新グローバル調査によると、アメリカで生成AIを使っている企業は昨年度(2024年)から6%増加し、71%とになった。
- その一方で、日本国内で生成AIをすでに業務に活用している企業は17.3%にとどまり、約48%の企業は導入の予定すらないと回答している。
- AIを使用しない企業と比較すると、生成AIを業務に統合した企業では、生産性向上やコスト削減によって利益率の格差が今後さらに拡大することが予想される。
調査に至った経緯
ChatGPTの登場以降、「生成AIで業務を自動化」「AIで非効率をなくす」といった言葉が、あらゆるビジネスシーンで聞く場面が増えました。しかし、いざ自社で導入を検討すると、「本当に成果が出るのか」「費用対効果はどうか」といった疑問に直面します。実際、多くの企業がPoCやDXを進めているにもかかわらず、業種別・業務別にどの程度の効果が出たのかについては、あまり可視化されていないのが現状です。
本稿では、Salesforce社やMcKinsey & Company社が国内外で実施した調査データやヒアリング内容を参考に、DX化によって期待されるコスト削減率や業務時間の短縮率、また導入前後のKPIの変化について分析いたします。さらに、海外におけるDXの成功事例を踏まえながら、日本企業がいかにして効率的なDX化を実現できるかを考察いたします。加えて、属人的な業務の排除を通じて、AIがもたらすビジネス上のインパクトを定量的に評価し、日本企業における導入プロセスについても検討いたします。
調査概要
本稿では、McKinsey & Company社がAI導入を進めている1400社を対象に実施した、「The state of AI: How organisations are rewiring to capture value」(2024)および、 Salesforce社が2024年に実施した中小企業向けのグローバル調査を元に、生成AIの導入が企業活動に与える影響について分析いたします。また、業務効率の向上や収益拡大といった具体的な成果に着目しつつ、どのような業種に最も効果的だったか、国内外の活用データを用いて明らかにします。
グローバル企業で進むAI導入と効果:
タイトル:生成AIの導入による収益効果を実感する事業部門が増加中
出典:McKinsey & Company, “The state of AI: How organisations are rewiring to capture value”, 2025年3月
McKinsey & Company社の調査(2024)によれば、生成AIは欧米のテクノロジー業界やサービス業界において最も広く導入されており、特にマーケティング・営業、製品開発、ソフトウェアエンジニアリングといった部門で顕著な効果が見られています。また、同調査では、高度製造業や金融業、小売業など他業種でも導入が進みつつあり、マーケティングやサプライチェーン領域、顧客対応といった部門に収益改善やコスト削減効果が報告されています。(McKinsey & Company, 2024)
とあるグローバル製造業の企業では、設計段階においてプロンプト生成や部品選定の自動化を導入することで、製品開発サイクルを約20%短縮し、品質検査工程では人員配置を30%削減するなど、具体的な工程改善が実現されたことが報告されています(McKinsey & Company, 2023)。こうした成果は、PoCにとどまらず全社業務に統合された結果であり、ツール導入だけでは十分な効果が得られないことも示唆されています。
さらに、Salesforce社が2024年に実施した中小企業向けのグローバル調査では、AIを導入した企業において業務時間が平均29%短縮され、年間コストが最大22%削減されたという結果が報告されています(Salesforce, 2024)。また、従業員一人あたりの生産性も平均19%向上しており、特にカスタマーサポートや営業支援の分野で顕著な成果が得られています。
欧米の中小企業の導入事例から学ぶ、実際の効果
Salesforce社が2024年に行った調査では、AIを導入している中小企業の91%が「売上が伸びた」と実感しており、87%が「業務をスムーズに拡大できるようになった」、86%が「利益率が上がった」と答えています(Salesforce, 2024)。さらに、78%の企業が「AIは自社にとって大きな転機になる」と期待しており、日々の業務支援だけでなく、会社の成長を支える存在としてAIを活用していることがわかります。
さらに、成功している中小企業に共通する要素として、
- データ基盤への投資(成長企業の74%が実施)
- 部門横断的なテクノロジー統合
- 信頼できるベンダーとの連携
- 社内のシステムをつなげて情報の一元管理ができていること
- 信頼できるベンダーと組んでいること(81%の企業が信頼性を重視)
といった共通点が見つかりました。
こうした結果は、日本企業が「PoC(試験導入)」の段階を越えて、AIを実務へどう活かしていくかを考える上で、大きなヒントになるでしょう。
欧米と国内のDXの差とは?
図1:11領域(例:人事、IT、製造、営業、財務など)のAIの利用状況
出典:McKinsey & Company, “The state of AI: How organisations are rewiring to capture value”, 2025年3月
近年、欧米の企業では、AIを業務のさまざまな領域に取り入れる動きが急速に進んでいます。2025年には、AIを1つ以上の部門で活用している企業が全体の78%に達し、3つ以上の部門に導入している企業も45%と大きく増加しています(図1)。このように、AIはもはや一部の先進企業に限られるものではなく、幅広い企業活動に根付きつつあることがわかります。
図2:職位・年齢層別に見た生成AIツールの使用経験(Seizing the agentic AI advantage) 出典:McKinsey & Company, “Seizing the agentic AI advantage”, 2025年6月
図3:業務機能別に見る生成AI導入によるコスト削減効果
出典:McKinsey & Company, “Seizing the agentic AI advantage”, 2025年6月
さらに、AIの活用が進むにつれ、業務の効率化やコスト削減といった具体的な成果も表れ始めています。たとえば、2025年後半の調査では、「サプライチェーン・在庫管理」や「サービスオペレーション」などの分野で、AI導入によりコストを10%以上削減できたと答えた企業が多数を占めています(図3)。また、AIを活用する人の層も広がっており、経営層から現場のマネージャー層まで、さまざまな役職・年齢層の人々が、業務の中で生成AIを積極的に使い始めていることが示されています(図2)。
このような動きは、AIが欧米企業にとって「単なるITツール」ではなく、「業務そのものの変革手段」として定着しつつあることを意味しています。組織全体での導入、業種を問わないコスト削減、そして多様な層での実利用の広がりといった点から見ても、AIが欧米企業の競争力強化にとって中心的な存在となっている様子が見受けられます。
一方で、日系企業では、生成AIの導入が限定的であり、欧米企業と比べて導入範囲やスピードにおいて大きな差が生じております。たとえば、帝国データバンクの調査によれば、日本国内で生成AIをすでに業務に活用している企業は**全体の17.3%**にとどまり、約48%の企業は導入の予定すらないと回答しております。また、PwC Japanの調査(2024年)では、日系の大手企業であっても業務活用率は43%に過ぎず、アメリカの78%といった高い活用水準とは対照的な結果が出ております。
こうした導入の遅れは、部分的なPoC(概念実証)にとどまり、組織横断的な業務改革や人材の再配置といった本格的な統合プロセスに至っていないことが一因とされております。実際、AIツールの導入に際し、現場業務に即した設計やデータ整備が不十分なままでは、期待される生産性向上やコスト削減効果が限定的となる傾向にございます。
そのため、AIの効果を最大限に引き出すためには、欧米の先進企業が実践しているように、トップマネジメント主導での戦略的なAI導入と、部門を超えたプロセスの再設計、人材育成を含む全社的な取り組みが不可欠であると考えられます。今後、日本企業においても、単なるツール導入にとどまらず、業務全体の再構築を伴うAI実装が求められていくでしょう。
展望:日系企業がAI活用を進めるためには?
これから日本企業がAIをより効果的に活用していくためには、「試しに使ってみる」段階から一歩踏み込み、業務全体に組み込む視点が欠かせません。欧米の先行企業では、営業支援やカスタマーサポート、製品開発など複数の部門にAIを導入し、それらが連携することで大きな成果を上げているケースが多く見られます。
例えば、部門ごとにバラバラに存在する業務データを統合し、AIが横断的に活用できるようにすることで、営業では「次にアプローチすべき顧客」の提案、サポートでは「問い合わせ内容の自動分類と返信」、経理では「仕訳の自動化」など、さまざまな改善が実現可能となります。
そのためには、まず社内に点在するデータの整備と共有、次にAI導入の目的を明確にした上での優先順位づけ、そして最後に、実際に使う現場メンバーのスキル習得や運用ルールの見直しといった、「使い続ける仕組みづくり」が重要です。
また、経営層がAIの導入を単なるコスト削減手段ではなく、「新しい価値を生み出す投資」として前向きに捉えることで、現場の理解と巻き込みもうまく進みます。日本企業にとっても、段階的であっても着実に、全社的な視点でAIを活用していくことが、今後の競争力を高める鍵となるでしょう。